SSブログ

久々に日記復活 [日常]

『罪なくちづけ』発売中です。

作中出てくる『環七のデニーズ』はもうなくなってます。
私が住んでた頃に焼き肉屋さんに変わってしまったのでした。
今はまた他の店になってたりして?

懐かしいです。

というわけで、当時サイトに載せていた(同人誌にも収録しました)

『思い出の場所』をこちらにupさせていただきますね。


『思い出の場所』

 
「あ」 
「あ」 
 俺が気づいたのと同時に隣を歩いていた良平も『それ』に気づいたらしかった。 
「…なんや、いつの間に…」 
「うん…」 
 良平が呆然とした声を出す。俺も目の前に開けた光景に驚きと、そしてなんともいえない思いを胸に、言葉少なく頷いていた。 
 今日は久々に良平と俺の休みが重なり、二人して夕食の買い物に近所のスーパーまで繰り出すことになった。買い物を済ませたあと、紅葉も綺麗だしちょっと近所を歩いてみようということになり、ぶらぶらと環七を歩いていたのだが、見慣れたはずの光景の中、不意に見慣れぬ看板を見つけて俺たちは足を止めたのだった。 
 そこは、今までデニーズがあった場所だった。良平と知り合って間もない頃、彼と遅めの昼食をとった店だ。 
『ほんま、ごろちゃんとは気が合うなあ』 
『ご、ごろちゃん??』 
 初対面に近かった――割にはしっかり身体の関係は結んでしまっていたのだけれど、俺が始めて良平に『ごろちゃん』と呼ばれたのはこのデニーズだったような気がする。 
『何にしようかなあ。デニーズやとナタデココは外されへん』 
 警視という役職にびびりまくっていた俺は、良平のそんな砕けた様子に違和感を持ちながらも惹かれていってしまってたんだよなあ、などと懐かしいことを思い出す。 
 その思い出のデニーズが、いつの間にか『安楽亭』という焼肉屋に変わっていたことに、俺は驚き――驚いただけじゃなく、ショック、としか言えない思いを抱いてしまっていた。 
 こんなことぐらいでショックを受けるなんて、我ながら女々しいよな、と良平に気づかれぬよう小さく溜息をついた俺の耳に、ぼそりと呟く良平の声が響いてきた。 
「……ほんま気ぃつかんかったわ」 
「俺も…」 
 良平の声にも心持ち元気がないように聞こえるのは、俺の気のせいではなさそうだった。俺にとって、『思い出の場所』だったあのデニーズを、良平も『思い出の場所』と思ってくれていたのだろう。 
 同じ『思い出』を共有していたと思うと、その場所を失った寂しさもなんだか少し癒えるような気がして、俺は傍らを歩く良平に微笑みながら話しかけた。 
「あのさ」 
「なに?」 
「今日は夕飯の材料買っちゃったけど、今度、食べに来ようよ」 
「……せやね」 
 思い出の場所はなくなってしまったけれど、また新たに『思い出』は作れる。こうして隣を歩いているかぎり――。 
「ナタデココはないけど、良平の好きなユッケはあるよ、多分」 
「ごろちゃんの好きな冷麺もあるやろしな」 
 俺の言いたいことが伝わったのだろう。良平は笑って頷くと、俺の肩に手を回しぎゅっと力強く抱き寄せてきた。 
「せや、善福寺川あたりまで歩いてみよか。銀杏でも拾えるんちゃうかな」 
「そうだね」 
 互いに顔を見合わせ笑い合い、なくなってしまった『思い出の場所』の前を行過ぎる。 
 角を曲がるときふと目に入った『安楽亭』の看板は、やはり俺の胸に一抹の寂しさを与えはしたけれど、寂しさにより勝る新しい思い出をつくるべく俺は良平の胸に身体を寄せ、俺を見下ろす彼へと微笑みを返した。 

髪を切るのまきうぬぼれ刑事 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。